それから

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  ***  人通りの少ない商店街を歩きながら、斎間玲は頭を悩ませていた。  隣では西がどうってことないような口調で、 「そんなに落ち込むなよ。他にもいい店はあるだろ」  と、励ましの言葉を投げかけてくれている。 「歩かせてごめんなさい。まさか定休日だとは思わなくて……」 「しょうがないよ。定休日に開けてくれなんて言えないし。他の店を探そう」  小さな隣町から稚内まで続く国道で、斎間は昔の恩師であり、初恋の相手・西浩輔と奇跡的に再会したのである。  約九年ぶりだった。奇跡、という言葉を使うのは好きではないが、これを偶然というありきたりな言葉で片付けたくはなかった。  話の流れで予定を変更し、自分の現在住んでいる稚内まで戻ってきてくれた西。  懐かしくて、もっと話したくて。そして、あの夜約束したように今度は自分が大人になったことを証明したくて……最近見つけた寿司屋で食事でも、と思ったのだが。  店先のシャッターにかかっている『定休日』の看板を発見するないなや、斎間はガックリと足腰が崩れ、その場にへたりこんだ。  これまで予約もしないで三回連続で入れたのに、なぜ今日に限って。仏頂面の店主が憎たらしい。 「散歩しながら探そう。ホテルも予約したいし」  寿司屋からほど近いビジネスホテルで、西は部屋が空いているかをフロントに尋ねた。  満室であることをひそかに祈っていたけれど、奇跡は一日に二度起こってくれなかったようである。  ホテルから出てきた西はホッとしたように、 「一部屋キャンセルが出たみたいで空いてたよ」  と、斎間の好きな笑顔で言った。
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