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残念がっているのは自分だけのようだ。
シャッター街と化している商店街の並びは、現在でも営業しているのか閉店してしまったのかわからないような店が多くある。なんにせよ、田舎の夜は早い。
まだ八時前だというのに、店のほとんどが営業を終了している。これから活気が出てくるのは、狭い一帯の飲み屋通りだけだ。
「稚内ってロシア語多いよな」
二人で商店街を歩いていると、店の看板に書いてあるロシア語らしき文字を見て、西がポツリと言った。
「近いから」
「日本の北の北だもんな。ここは」
「夏でも夜は寒いです」
「だろうな」
「先生はーー」
「あ! あそこ行ったことあるか?」
西は急に立ち止まって商店街から少し離れたところにある赤ちょうちんの店を指さした。
「前に一度だけ……」
そこは以前、会社の上司に連れられて行ったことがある。老夫婦が経営している海鮮焼きの居酒屋だ。出てくる食事やお酒はおいしかったけれど、店主がなかなかの堅物で、注文したものが出てくるのがとにかく遅い。料理を催促したら逆にキレられるという店側と客側の立場が逆転している店だ。
「こういうこぢんまりした店って気になるんだよな。入ってもいいか?」
「えっ、そこはちょっと」
斎間の返答を待たずして、西は店内へと入ってしまった。
仕方なく斎間も暖簾をくぐる。北海道特有の二重扉の間と間には、大きな熊の木彫りがあった。それさえも雰囲気があって、入店を拒否されているかのようだ。
座敷には土木関係らしき客が数名いた。カウンター席にも、一人客が何組かいる。西と斎間は出入口とトイレに一番近いカウンター席に案内された。
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