それから

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 夫である店主よりはいくらか愛想のいい女将さんにおしぼりをもらい、瓶ビールと枝豆、刺身と海鮮焼きを注文する。  本当は生ビールがよかったし、何より座敷で向かい合わせに話したかった。  そして案の定。  瓶ビールがこない。  西は不満げな顔一つせず、カウンター上のテレビから流れるバラエティー番組を観て笑っていた。  これも斎間の好きな顔である。  ハイお待ち、と女将さんがビール瓶をカウンターに置いた。 「お、注いでくれんの?」 「あたりまえです。おれだって一応社会人してるわけだし……」 「それにしても驚いたよ。斎間が営業だなんてな。それも薬の」  互いのグラスにビールを注いでから、カチッと鳴らして乾杯する。一気に飲むと、夜の散歩で冷えた体にぽわんと火が灯った。 「先生は今はなにをしてるんですか」 「ん。大学で教えてるよ」 「高校じゃなくて?」 「高校は無理だよ。前の学校辞めた理由聞かれるだろ。んで、嘘つくわけにもいかないから正直に言うだろ。そうすると、な」  西は両手を広げる仕草をした。その先は言わない。 「大学院行ったんだ。そんで実験したり論文書いたり学会行ったり……あんまり人に会わない生活してたな」 「……すみません」 「謝るなよ。大学は気楽で俺には向いてると思ったよ。修士があれば紹介で簡単に職員になれたし、分野が専門的だから学生たちも熱心だしな。それにーー」  西は一呼吸おいてから、 「夏休みがある」  と、笑顔で言った。
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