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「大丈夫か?」
西が体を支えてくれる。そういえば、再会して初めて西に触れたのだと気がつく。心臓に直接アルコールをかけられたように、斎間の胸はドクンと鳴り、そして熱くなった。
「もう帰ろうか。送るよ」
「ま、だ」
足りない。話していないこと、話したいことが、まだまだたくさんあるのだ。
「どんだけストレス溜まってるんだよ。でも飲みすぎだ、バカ」
こけそうになり、西に支えられながら椅子に座らせられる。チェイサーの水を飲んで、ぼんやりと西の顔を見つめた。
「明日は仕事か?」
首を横に振る。
「じゃあ家でゆっくりーー」
「なんで」
ふと口をついた。無理やり納得させてきた疑問――。
「なんで、突然いなくなったりしたの」
「……」
「おれ、ずっと悲しくて、怖くて……」
人目もはばからず、斎間はポロポロと涙をこぼした。あのときの喪失感は、九年経った今でも、絶望と幸福の間に、必ずやってくる。
でも憎めなかった。西が大人としてああするしかなかったことは、わかるから。
だけどーー。
「捨てるなんてひどい……」
あの頃、そんな気持ちを言葉にすることはできなかった。聞いてくれる相手もいなかった。
現実をただ受け止めることに精一杯で、西の選択を正当化することに精一杯で。
「とりあえず出よう」
西はそう言うと、会計を済ませた。
自分もお金を出そうとしたけれど、西が出させてくれなかった。
木彫りの熊が、憐れむようにじっとこちらを見つめていた。
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