それから

7/15
前へ
/31ページ
次へ
 ***  泣きながら男のあとに続く。情けなさに拍車がかかった。  夜空は空をさらに広くさせていた。肌寒い風が、頬の涙のあとを撫でる。商店街は静かだった。 「どこ行くんだよ」  相手は答えない。明るい建物の前で、西は立ち止まった。先ほど部屋を予約したビジネスホテルだ。  斎間は愕然とした。怒らせてしまった。せっかく会えたのに。自分が十年近く前のことを持ち出したりしたからーー。  西はチラリとこちらを見てから、ホテルの中へと入って行った。  ショックだった。もっと楽しい話をすればよかった。さっきまでは、あんなに笑っていたのに。  また、捨てられる。  呆然と突っ立っていると、ホテルから出てくる人の影で自動ドアが開いた。 「早く入れよ。風邪ひくぞ」  西の声だ。  手を引かれ、フロントの前を通ってエレベーターに乗せられる。 「え……?」 「どっちにしろ二人用の部屋だったからな。おまえの分の料金払ってたんだよ」 「え……?」 「ホラ、降りて」  促されるまま部屋へと向かう。  部屋の真ん中には、ダブルベッドが一つあった。シンプルな部屋だ。 「二人用って……」 「ベッドは一つだけど、一応二人部屋だからな」  西は口の横をポリポリと掻いて、斎間の視線から逃げた。 「話したいんだろ?」 「話し……たい」 「まあ……俺もだから」  斎間は我慢できず、西の頬に指先を添わせた。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

331人が本棚に入れています
本棚に追加