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泣きながら男のあとに続く。情けなさに拍車がかかった。
夜空は空をさらに広くさせていた。肌寒い風が、頬の涙のあとを撫でる。商店街は静かだった。
「どこ行くんだよ」
相手は答えない。明るい建物の前で、西は立ち止まった。先ほど部屋を予約したビジネスホテルだ。
斎間は愕然とした。怒らせてしまった。せっかく会えたのに。自分が十年近く前のことを持ち出したりしたからーー。
西はチラリとこちらを見てから、ホテルの中へと入って行った。
ショックだった。もっと楽しい話をすればよかった。さっきまでは、あんなに笑っていたのに。
また、捨てられる。
呆然と突っ立っていると、ホテルから出てくる人の影で自動ドアが開いた。
「早く入れよ。風邪ひくぞ」
西の声だ。
手を引かれ、フロントの前を通ってエレベーターに乗せられる。
「え……?」
「どっちにしろ二人用の部屋だったからな。おまえの分の料金払ってたんだよ」
「え……?」
「ホラ、降りて」
促されるまま部屋へと向かう。
部屋の真ん中には、ダブルベッドが一つあった。シンプルな部屋だ。
「二人用って……」
「ベッドは一つだけど、一応二人部屋だからな」
西は口の横をポリポリと掻いて、斎間の視線から逃げた。
「話したいんだろ?」
「話し……たい」
「まあ……俺もだから」
斎間は我慢できず、西の頬に指先を添わせた。
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