それから

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 驚いたのか、西はピクッと反応を示す。だが、その指を拒むことはなかった。だからもう少しだけ……もう少しだけ、進めてみる。  親指で唇をなぞる。西のそれが、わずかに緊張感をもつ。  こちらを見上げる目は、九年前と何ひとつ変わっていないように思えた。 「……んっ」  斎間は西の唇に自分の唇をやさしく押し当てた。  軽いキスのあと、一度離れる。  西の顔は赤かった。アルコールのせいだけではないだろう。 「話したいんじゃなかったのか」 「うん。話したい……」  今度は激しく、西の唇をむさぼった。舌を相手の舌に絡ませ、ねっとり犯すようになめとる。苦しそうに逃げようとする西の頭を固定し、深く深く、口内を蹂躙した。  シャツをたくし上げようとすると、西が「たんま!」と叫んだ。 「え、ちょっと……」  勃起した自分の下半身。こんな状態で止められるのはきつい。 「話したいんじゃなかったのかよ!」 「なに話したかったんだっけ……」 「バカじゃねえの! それに俺はもう四十だぞ!」 「もしかして性欲ない、とか?」 「そ、そりゃ……ないこともないけど」 「じゃあしよう」 「っちょ、話は!」  抵抗する西の体をくすぐる。 「きゃははははは! っちょ、ヤメロって……!」  体をよじらせ、逃げようとする西をベッドに押し倒し、斎間はさらに相手をくすぐった。西はさしずめ、地上に打ち上げられた魚のようである。  男の笑い声に、こちらまで明るい気持ちになる。さっきまでの沈んだ気持ちはどこへいったのやら。 「いい加減に……!」  言いかけた男の唇に、再度口づけた。何度キスをしても、足りない。同じようにきっと何を話しても、話し足りないと思うのだろう。  だったらーー。
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