586人が本棚に入れています
本棚に追加
店は毛足の長い柔らかな絨毯を敷き詰めた薄明るい店で、ショーケースの中には様々な輝きを放つ宝飾品が並んでいる。そこにいる店員も皆一流という様子で、ぴっちりとスーツを着て、手には白い手袋をしている。
「これは、ランバート様。本日はどのようなご用向きでしょうか?」
そこそこベテランの、壮年の男性が声をかけてくる。それに、ランバートは慣れたように手を前に制して静かに言った。
「今日は俺の用できたわけじゃない。少し店内を見て回りたいから、案内も不要だ。必要ならこちらから声をかける」
「さようでございますか。それでは、ごゆっくり」
にこやかに笑い、一礼した男性はそのまま下がっていく。後ろでその様子を呆然と見ているファウストに向き直り、ランバートは苦笑した。
「母が上得意なんですよ。その縁で俺もここには何度か」
「初めてお前が名家の子息に見えた」
「それは失礼いたしました」
呆然と言われた事に笑って、ランバートは店の中を進んでいく。隣のファウストは落ち着かない様子でショーケースの中を見ていた。
「絵を描くということは、指輪やブレスレットは好まないでしょうね」
「あぁ。手に何かをつけているのを見た事がないな」
「金属にかぶれたことは?」
「そんな話は聞かない」
広がる指輪のゾーンを抜け、ブレスレットやネックレスを超えていく。店内をぐるりと回っていると、不意にブローチを集めたコーナーを見つけた。
最初のコメントを投稿しよう!