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「ブローチ、可愛いですね」
「ん?」
ランバートが歩み寄っていくのを追ったファウストも、同じようにケースの中を覗き込む。
ケースの中は様々なブローチがあるが、その中でも目を引いたのは金や銀でできた精緻な丸いブローチだった。
童話をモチーフとしているらしく、物語の象徴的な場面を金銀の細工で再現している。その中に一つだけ、アクセントのように宝石がはまっている。
「これは、白雪姫ですね。リンゴに赤い宝石がはまっています」
「シンデレラのガラスの靴、雪の女王の氷か」
「ブレーメンは音符が宝石ですよ。なかなか愛らしいですね」
見ていると童心に戻るようで、少しウキウキしてくる。それにしても綺麗だ。人物はシルエットになって表情はないが、浮かぶ情景で表情まで分かるようだ。
「美女と野獣だ」
「え?」
ファウストが少し離れた場所にあるブローチを指さす。そこにはドレスを纏う女性と、大きな野獣が手を取り合って踊る姿が描かれている。その二人の上には赤いバラが一輪、宝石がはめ込まれてある。
「異国の童話なんだ。母が童話が好きで、俺や弟にまで読んで聞かせてくれた。この話はここらではあまり語られていないようだが」
「どんな話なのですか?」
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