586人が本棚に入れています
本棚に追加
店を出たのは昼時を少し過ぎたくらいだった。
結局ブローチと、それに合うジュエリーボックスを選んだ。小さなオルゴールのついたもので、表面には花や草をあしらった彫り物がされている。その中にブローチを納め、贈る手続きもした。一流の店だからこそ、高価な物の輸送も安心して頼める。
今は落ち着いた店で一息つきつつ、遅めの昼食を食べ終わった所だ。お茶を飲んでほっと息をついている。
「やっぱり、お前に頼んで正解だったな」
そう言ったファウストは少し疲れている。本当に慣れていないのだろう。宝飾店で既に疲れ切っている様子だった。
「思い通りの物が見つかってよかったです」
「あぁ。俺ならあの店には入れないな」
「貴方だって名家でしょうに」
「男ばかりで相手もないのに、縁のない店だろ?」
「まぁ、口にすると少し寂しいですが」
否定はせずに苦笑して、ランバートはお茶を飲み込む。久しぶりに穏やかな午後だ。
その前に、コトンと何かが置かれた。黒い小さめの箱は、金の文字でさっきの宝飾店の名が書かれている。
「これは?」
「お前にだ」
「俺に?」
最初のコメントを投稿しよう!