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目を丸くして問い返してしまう。こんな物を貰う理由が思い浮かばなくて箱とファウストを交互に見ていると、困ったような笑みが返ってきた。
「以前、リマの日にお前から贈り物を貰っただろ? それのお返しだ」
「そんな! あれは本当に、日頃のお礼と思っていたのにこんな…」
あの店は安い物はないはずだ。手編みのマフラーとはとても釣り合わない。なんだか心苦しい思いをしていると、形のいい指が箱に触れて、そっと蓋を開けた。
「あ…」
それは小さなピンブローチだった。金でできた、蔦をあしらう三日月の中に、青い小さな宝石が一つはめ込まれている。
「見つけた時に、お前に似合うような気がした。貰って、返せないのも引っかかっていてな。それに、世話になったのは俺も同じだ。だからこれは、遅くなったが」
ファウストの指がピンに触れ、動けないランバートの襟元に触れる。そこに飾られたピンを見るファウストが、この上なく満足そうな笑みを浮かべた。
「これなら、制服にもつけられるだろ」
「こんな高価なもの、普段着につけられませんよ」
落としたらどうしようと常に気を配らなくてはならなくなりそうだ。
でも、胸元に飾られたブローチをなぞると温かな気がして、自然と笑みが浮かぶ。誰かから贈り物を貰うなんて、どのくらいぶりだろうか。なんだかくすぐったくて、嬉しかった。
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