585人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
音が近い。まだ相手の姿は見えていないけれど、確実に近い。草を分けて睨むと、五十メートルくらい先に目標の人物を見つけた。
「トレヴァー、みーつけた」
「レイバン!!」
悲鳴に近い声を上げて本気で走るトレヴァーが、面白いくらい青い顔で逃げていく。これだからこいつは楽しい。予想以上の反応をしてくれる。
けれどちょっと厄介なのが、こいつの足の速さとスタミナだ。とにかく足も速いし疲れない。だがそれも整備された道での事。ここは足場の悪い森の中だ。
レイバンは獣のように俊敏に走る。全身をバネにして走ると、距離は徐々に縮まる。足場が悪いからだろう。そのうち、木の根に生えた苔に足を取られてトレヴァーがバランスを崩した。
「わっ!」
「おっと!」
ずっこける前にどうにか片腕を掴んで引っ張れた。ギリギリセーフ、怪我もない。そしてそのまま、レイバンはトレヴァーの腕章に触った。
「はい、一人目」
「なんでだよぉ」
「お前の音はでかいんだよ」
種明かしをすると、トレヴァーは理解できない顔をした。
「俺は耳と鼻がとってもいいんだよ。お前は体でかいのに無遠慮に草かき分けて踏みつけて走るだろ。もの凄くわかりやすい」
「どんな耳してんだよ」
がっくり肩を落とすトレヴァーに、レイバンは笑った。
昔から耳は良かった。動物の足音も感じられるくらいだった。そのうち、歩き方の癖や体重で誰の足音か個人を特定できるようになった。実に面白い特技で、気に入っている。
「さーて、次は…」
耳をそばだてると、とても小さな音がする。カサカサッと草に隠れるような音、軽い足音。
「コナン、みっけ」
ニヤリと笑ったレイバンは森の中へと再び踏み出したのだった。
最初のコメントを投稿しよう!