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その日の夕食時、いつもの通り席についたランバートは隣のファウストに視線を向けた。
「ファウスト様、昇級試験があるというのは本当ですか?」
率直に問いかけたランバートに、ファウストは静かに頷いた。
「俺の評価、下げてもらえませんか」
「下げる? なぜ、そうなる」
予想外だったのだろう。驚いて目を丸くした人が問いかける。これに、シウスやオスカルまでもが興味津々そうだった。
「俺、あまり上に行きたいと思わないので。最低ラインがむしろ理想です」
「逆を頼む者はいても、下げろと言う奴はおらなんだな。お前は昇格に興味が無いのかえ?」
「ありません。むしろそういうのは、面倒が多いですから」
そう言って、ランバートは俯いた。
過去にも仕事をしていたが、昇格というのは面倒だった。
大抵、仕事ができる人間を上の者は引き上げようとする。だがそれは同期からの嫉妬をかう。そこから陰口などが始まり、周囲とギクシャクし始める。それが嫌で、これまでにも仕事を辞めてきた。
「その言いようだと、過去にも嫌な事があったみたいだね」
「仕事を辞めるくらいには」
「相当だね。やっぱり君は上司から可愛がられるんだ」
オスカルの楽しそうな声が少しイライラするくらい、この問題にはナーバスだ。
「お前の評価を意図的に下げるつもりはない。そんな事をすれば、他の評価も下げざるを得ない。だが、昇級試験はお前にとって厳しいものになるだろう。それに、悪い事はない。難しく考えずに、大いに楽しめ」
それだけを言ってファウストは立ち上がり、席を離れてしまう。ランバートだけはどこかネガティブな気分のままだった。
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