5 ありとあらゆる疑惑

28/58
3428人が本棚に入れています
本棚に追加
/278ページ
話をしようか、と言われて腕の中で声を聞いていた。 「光菱(みつびし)。多分有名だと思うんだけど、知ってる?」 「……わたしの知ってる光菱であれば…」 「日本三大財閥が前身の光菱グループ」 「はい、存じてます」 枕に頭は乗せていたけど 後藤田様の腕がわたしを覆っていて 突然、ぎゅう、と抱き寄せられて 「オレの祖父が今そこのCEO。 で、親父が…COO」 身の上話が囁かれた。 CEOは会長でCOOが社長だと考えればいいとのこと。 「たまたま、今は世襲になってるけど、ホントはそんな決まりどこにもねぇんだよ」 「そうなんですか」 「派閥トップで力のあるもんが継いだらたまたまそうなっただけ」 唇が額のあたりでこそりこそりと動く度 擽ったさと、気持ち良さが入り混じる。 「オレもけっこう仕事デキる方でさ。 色々厄介なことがあんだけど」 以前、三雲様が“彼は光菱の後継者”と、言ってたことを思い出す。 「今日……ああもう昨日か? 知らない女が家にいたり 打ち合わせの席のはずが見合いになってたり 要は、早く身を固めろって言われてる」 それはイコール結婚ってことだ。 後藤田様の立場からすると極々当たり前のことなんだろう。 「建前だけでもいいから、公のパートナーを作れって、最近特に酷くてな、…… お前にも手間かけさせて、悪かった」 ぎゅう、と再度くるまれて今度は額に唇が押し付けられた。 「だけど、オレは結婚なんてする気もない。特にそんな形だけのどうでもいいのなんてサラサラねぇ。 訳のわかんない事言って、脅してくんのは親父でな? それには理由があんだよ」 瞼に触れる唇が、頬に移り、そこで軽く()むと、唇のすぐ横まで滑ってきた。 (うなじ)から背中を滑る右手がその指の腹だけで微かなタッチを催すと 身体が待ち侘びているかのように きゅん、と震えた。 「オレは所謂(いわゆる)(めかけ)の子なんだ。 親父とその愛人の間に出来た、禁忌(タブー)が、オレ」 口角から、やはらかに入り込んだ舌の先が (エナメル質)の表面をそっと撫でると、ぶわりと膚が立ち上がった。
/278ページ

最初のコメントを投稿しよう!