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5 ありとあらゆる疑惑
とても快適です。
そんな風に答えると、スマホの向こうから盛大な笑いが聞こえてきた。
後藤田様宅に来てはや三日。
気付けば世間はクリスマスイブ。
わたし宛に届いたお見舞いやら、プレゼントやらがその数を増やしているということで
白金楼、楼主から電話がかかってきたところだった。
怪我をした次の日には症状を伝え、仕事を休んでしまうことなどには謝りを入れてはいたが色々な確認のために毎日連絡を取るようにしている。
『それは良かった』
楼主はひとしきり笑ったあと、穏やかな音でそう言った。
白金楼は年末までの一週間は目の回る忙しさが常。
一階での宴席ひっきりなしに続き、年末仕様だからだろうか、心浮かれた客人が突発的に二階の小さな空きを見つけて飛び込んでくることもある。
遊女たちも、ほぼ毎日、朝から晩までフル稼働する。
『胡蝶がいないからそうでもないよ』
「……申し訳ありません」
忙しさを尋ねた答えがこうだったから、素直に頭を下げた。
『ああ、嫌味で言ったんじゃないんだ
お前の根強い人気を改めて思い知ったって話だよ』
「すみません」
『胡蝶が休むことは、予約を入れてくださってた皆様、快く承知してくれてるし
あのバカがその分引き受けてくれたからウチとしてなにも損失は出ていないから、ほんとに心配するなよ』
「……はい?」
『……後藤田様はお元気ですか?』
今、あのバカ、って聞こえた気がする。
ちょっとだけ面白くなって唇の端が緩んだ。
そりゃ、楼主をおやっさん呼ばわりするくらいだから、ほんとは仲良しなんだろうとは思っているけど、今までに楼主本人が大客人に対してフランクに振る舞ったことは一度もなかった。
なのに
「今、あのバカ、って言いました?楼主」
『言ってない』
今度はわたしが笑う番だった。
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