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「言いましたよね」
『言ってない』
これはいつまでも問答が続くやつだ。
仕方なく
「お元気ですよ。
毎日忙しくされています」
わたしが大人対応をすることにした。
『そう、まあこちらも胡蝶のことに対しては何も心配はしてないんだ。
なんせあのバカがひっきりなしに構ってくるだろうから』
「やっぱり言った!」
『ああ、これは失敗、後藤田様には内密にしといてくれよ』
悪戯っぽく言う楼主の顔が目に浮かぶ。
『だけど』
「はい」
『無茶はしてくれるなよ』
「はい」
滑らかな静けさのように耳に滑り込んだそれにしっかりと頷く。
無茶、とひと言に括られたけど男と女が一緒の住まいにいるんだ。
それに、大客人という立場のお方。
わたしをどうこうしてしまっても一線はきちんと引け、という事だろう。
そんな心配なんていりませんよ?
後藤田様はあの初めの夜、わたしに触れてからは忙しい所為もあってか
ほとんどわたしとは顔を合わせてはいないのだから。
そう考えると、ちょっと寂しいと思って痛みの取れてきた左脚に視線を落とした。
『ああそれとな、胡蝶』
「はい」
ふ、と思い出したように軽く言われて
わたしもそれに同調する。
『金魚の件、片付いた』
「え」
なんでもない事のようにそうして会話を終える。
詳しいことは、年明けに直接話すよ、と言われて。
最後に『後藤田様に宜しくな』と
楼主は笑みを含んだ声で通話を切った。
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