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広いリビングの
広すぎるソファーの上でブル、と肩が震えた。
午前中にハウスキーパーが二名、この家を隅から隅まで整えて帰ってしまってからは
わたしは独りで過ごしている。
勿論、昨日も一昨日もそうだった。
その前例から後藤田様は夜遅くにならないと帰宅しない。
今日も恐らくそうだろう、と思われる。
片付いた、と言われて
ああ良かった、と思えないのは
その真相がまだ明らかになっていないことと、あんな身近で起こったことだから
それをした本人は
わたしの周りの誰か、だということだ。
しかもすぐ傍にいる誰かのはず。
ゴクリ、と喉が大きく鳴った。
開け放たれたカーテンは向こうの向こうまで絶景を見せていた。
一面に張られたガラスはよく磨かれていてその境があるようには見えないくらい。
突き抜ける程の絶景。
独りで過ごす心細さを晴らすようにそれを眺めて深い呼吸を繰り返した。
途端にガタガタ、と響いてきた音にさっきよりももっと強く肩が震える。
リビングの向こうに視線をやって
明らかにこちらに近付いてくる気配に息を呑むと同時にどん、と肋骨を内側から押し上げるくらいに跳ねた心臓が急速に鼓動を走らせた。
こんな時間に後藤田様が帰ってくるわけない
だって、今朝も
「ちゃんといい子にしてなさい」
そう言って、色っぽく微笑んで出掛けたんだから。
玄関とリビングを繋ぐ扉の前に人影が映る。
それはイエローとクリアに交互にはめられたガラス戸で肝心な部分が遮られていてわたしから全貌は分からない。
ラッチボルトがカチ、と小さな音を立てて鳴り、そこが開いてすぐ
「え?」
わたしと目が合ったその人は明らかに訝しげに眉を寄せる。
「……どちら様??」
見目に似つかわしい、透き通るような声だった。
驚きで暴れていた心臓が、この瞬間に別の理由で走り始めたことは直ぐに気付いたけど
それは今は触れないことにしよう。
そう思って、ソファーから立ち上がった。
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