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ふ、と顔をあげてたまたま目に付いた、というのが正しいだろう。
シンクに掛けられた水切りラックに皿が並んでいる。さっき感じた言い様のない不安を確かめるために黒いタイルの上を進んだ。
ひとり暮らしにしてはかなりのサイズの冷蔵庫を開けて違和感が頭の中に広がって、その不安を確信した。
「……何故、こんなことをする必要があるんだろ……」
いつもはある筈の
今日も確かに用意された筈の
わたしの昼、夜ご飯はどこを探しても見当たらず
水切りラックを振り返り、大きさの違う幾つかの並んだ皿を見つめたが
そこにはさっきまで入っていたであろう料理が跡形もない。
さっき大きな音をたてていたのも
ザーザーと水を流していたのも
ディスポーザーで生ゴミを粉砕してたんだ、と分かってガックリ肩を落とした。
庫内中央に、彼女の持ってきたケーキの箱だけがとても目立っていて
目を伏せて、扉を閉めた。
はぁ、とため息を吐かざるを得なくて
ザワザワとする気持ちを抑える。
「どこに行っても、同じことの繰り返し……」
彼女は明らかにわたしに対して敵意をもったんだろう。
わたしが、この部屋のカギを使って入ってきた彼女に抱いたちっぽけな妬心なんて比べようもないくらいに大きな悋気を一瞬で燃やしたに違いない。
「だから、きっと一階で諭してるんだな」
思い上がりは、自分よがりでしかない。
わたしはただの遊女であって
後藤田様からしてみれば、“金で買った”存在でしかない。
並んだ皿が何故かボヤけていく。
馬鹿じゃないのか。
なんでこうなる。
下界のことはわたし達には絵空事だ。
わたしの年季はまだ6年もある。
無事に満了してそれから夢の続きを見ればいい。
ぐす、と鼻を啜って目の際を拭った。
「……直接連絡すればいいじゃない。
わたしに頼むとか
意味わからないんですが」
「連絡先なんて知らねぇよ」
低くて、ややため息混じりの鋭い声がした。
半ばヤケクソに言い捨てたら
それに返事が返ってきて
ギョッ、としたのと
拭こうと思って手を伸ばした皿を掴み損ね、危うく割ってしまうくらい、吃驚した。
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