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「…なんだよ?」
「あそこって、お化けが出るんだぜ?」
「はぁ?」
「お・ば・け!だから、みんな気味悪がって近寄らないんだ」
――たしかに、バケモノが出そうだ。
バケモノどころか、キツネやタヌキその他諸々が挙って出そうだ。
(とりあえず、鬼婆はいたな)
嘆息しながら、佐々木は口を開く。
「…それで?お前は御親切に忠告しに来たのか?」
「え?」
「どこの店も閉まっているし、もう暗いじゃないか?ここはバス通りからも外れているし、住宅街からも反対方向だ。通りすがりに偶然声を掛けたっていうなら、ちょっとムリがあるぜ?」
多分、この少年は、佐々木が旅館を出てくるタイミングを見計らって、声を掛けたに違いない。
偶然ではなく、明確な意思をもって佐々木へ接触したのだ。
(ちょっと、こういう洞察力を働かせるところってば所長っぽくないか?)
そう思うと、何となく、佐々木は得意げになる。
「お前、わざわざオレにお化けの話を聞かせたくて、こんな寒空にオレの後を付けていたのか?」
「うっ…」
佐々木の指摘に、少年は見ていて分かるくらいに動揺した。
「いや、オレは――…先輩が、旧館にどっかの旅行者が迷い込んだみたいだから、教えてやれって命令されただけで…」
「ほぉ?」
口角をクッと上げ、佐々木はニッコリと笑う。
「ずいぶん親切な先輩だな?ここいらの高校生は、みんなそうなのか?」
「うっ…うるせぇ!とにかく、あそこは幽霊屋敷で有名なんだ!早く出て行けよ!!」
佐々木の追及に、たまらず、少年は早々に引き上げる事にしたらしい。
突如声を荒げると、そう言い捨ててパッと逃げるように走っていった。
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