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11 最終章
次の日の朝、佐々木は超不機嫌でムスッとしていた。
なぜだか、口もきいてくれない。
原因が分からず、綾瀬は嘆息しながら、そんな彼に言葉を掛けた。
「…それじゃあ、新館に行ってチェックアウトしてくるから、お前は車の中に荷物を運んで待ってろよ?」
そう言い残し、綾瀬は一人新館へ向かった。
◇
竹林を抜けると、そこは別世界でした――…。
(本当に、向こうとは全然違うよな…どっちがいいかは、好みによるが……)
「おはようございます。チェックアウトで宜しいですか?」
「ああ、頼む」
眩いばかりにキラキラとした新館のフロントで手続きをしながら、綾瀬は何となく、フロント奥のギャラリーに目を遣った。
そこには、四季折々の美しい蔵王の風景を写したパネルと、歴代の当主とおぼしき人物の写真が、白黒からカラーまで飾ってあった。
一番端は、昨夜顔を合わせた現当主の森川博道だ。
もう一つ、反対側に、見覚えがある。
あれは――…?
「――ちょっと、聞きたいんだが」
「はい、何でしょう?」
「あの写真のお婆さん、もしかして絹江さん?」
「え?ああ、はい。よくご存じですね?当館の名物女将だと、ここらでは有名な方だったらしいですよ」
「――…どんな人だったのかな?」
「それはもう、たいそうな女傑だったらしいです。この旅館で待ち人を待つと言って、そのまま中居になり、最終的には、女将を任せられるほど森川から信任を得たそうですよ」
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