11 最終章

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 フロントマンは、少し誇らしげにそう説明をした。 「…そうか……」 「その後は、森川本家から養子を迎え、跡はそちらへ譲ったそうですが――…今でこそ旧館は荒れていますが、彼女が権勢を振るった当時は、にっこうきすげ旅館といえばここらで一、二を争う名旅館だったそうですよ。だから今尚、森川家では旧館を大切にしているんです。彼女の遺言で、あの旅館だけはずっと守れということで――」 (ずっと守って――一途に待っていたのか…)  綾瀬は、蔵王の風景写真パネルの内の、一枚に目を止めた。  群生したにっこうきすげが見事に咲きそろう、黄色の可憐な花々に。       ◇ 「あれ?オッサンの方は?」  車の中でブスっとしていた佐々木に、そう声が掛けられた。  視線を向けると、雅也が、菓子折りの入った土産袋を手に提げて車へ近寄ってくるのが見えた。 「…新館にチェックアウトしに行ったよ。まったく、ここはヘンな所だな!今朝も朝食は来ないし――おかげ様で二日続けて弁当だったよ」 「あ、そうなんだ。じゃあ、アンタでいいや。これやるよ」 「――どーも」  佐々木は憮然としたまま、ドアを開けてその土産袋を受け取った。  そんな佐々木に、雅也はニヤニヤしながら口を開く。 「しかし、アンタら…三泊かぁ~ヤリまくったかよ?」  カッとなり、佐々木は雅也の脇腹をド突いた。 「って!!」 「やってねーよ!お前ら親子のせいでこっちは散々だ!」  本気で怒っている様子に、雅也はちょっとだけ申し訳なさそうな顔になった。 「そーなんだ?悪かったな」 「うるせぇ!だいたいお前ら、従業員用の部屋があったのに、何でそっちでデートしなかったんだよ!?普通、泊り客を追い出そうとするか!? 」
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