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「オレと連れの二人で、昨日、東京から車で来たんですよー。いやはや、ここの温泉は最高だけど、ちょっとこの宿も凄いもんだね。昭和何年?まさか大正時代じゃないよね?」 「―…さぁ、」 「ところで、にっこうきすげ旅館の新館って、近くにあるのかな?お兄さん知ってるよね?」 「…ああ」 「ほら、オレら地図なんて詳しくないから!迷いそうになっちまうんだよ~ナビも結構いい加減だし」  すると、相手に警戒心を抱かせない軽妙な綾瀬のトークに、先客は少しずつ心を開いてきたらしい。  徐々に、綾瀬の会話に応え始めた。 「――にっこうきすげ旅館の新館は、南通りに出てすぐ左側道を行けば見つかるよ」 「ありがとう。ところで、お兄さん」 「は?」 「ずいぶんと若そうだねぇ?まだ高校生っぽいけど―…」  そう、露天風呂の先客は、どう見てもまだ十代の若者だった。  従業員というには、若すぎる。 「お兄さんは、ここの近くの人かな?」 「…どうだっていいだろ」  急に、そうぶっきら棒に言い捨てると、先客の男は、露天風呂から上がって出て行った。  それを無言で見遣りながら、綾瀬はふぅと溜め息をついた。 「――さぁて、どうするかなぁ…」
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