185人が本棚に入れています
本棚に追加
/257ページ
遼介
4月5日
こんなウンザリな宅配の仕事から、早く撤退しようと考えていた矢先、思わぬ人と再会することになった。
俺の管轄するエリアは、西区の琴似周辺だ。
琴似駅に近いこのマンションへの配達は、いつも荷物が多いのだが、その中に松田彩矢という宛名の物があった。
同姓同名の人かな?
それとも彩矢ちゃんが、松田先生と小樽からこっちへ引っ越して来たのだろうか。
期待と不安が入り混じった気持ちが交錯する。
マンション一階の出入り口で部屋番号を押し、宅配業者だと告げる。
「あ、はい。お願いします」
インターホン越しの少しの会話で、彩矢ちゃんの声だと確信した。
セキュリティーの自動ドアが開いたので中に入り、エレベーターで28階まで上がる。
宅配業などやっている俺を見てなんと思うのだろう。Amazonからの荷物を持ちながら、不安が高まる。
緊張の面持ちで、恐る恐る玄関のブザーを押した。
「はーい」と言うインターホンからの返事が聞こえて、ガチャっと玄関ドアが開けられた。
穏やかな笑顔を見せた彩矢ちゃんの顔が、驚きに変わった。
「えっ? さ、佐野さん!」
呆然と俺を見つめている彩矢ちゃんの視線に、耐えきれなくなってうつむいた。
(了)
長い間、お付き合いくださいまして、ありがとうございました。
『六華 snow crystal 3』 連載中です。
引き続き、よろしくお願いします。
なごみ
最初のコメントを投稿しよう!