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駐車場の角に隙間があった。
本来ならコンクリートブロックの塀が交わり角を作っているはずなのに、消しゴムでブロックを一列消したような不自然な隙間だった。
ジンが隙間に体をすべりこませた。横歩きで奥へと進む。あずき色ジャージの少女は相変わらずリュックを抱いていた。リュックの底をなでる姿に、なぜか姉を思い出した。
茉莉が生まれて間もない頃の話だ。僕はまだ中学生で、実家で暮らしていた。姉一家は近所に住んでおりよく遊びに来た。
だっこ紐が珍しかったのを覚えている。赤ちゃんに関わることが気恥ずかしく見て見ぬふりをしていた。それに気づいた姉に声をかけられた。
―こうやって、だっこするの。
姉は、だっこ紐の上からいとおしそうに赤ちゃんをなでた。
「あなたはここ」
リクルートスーツの女性が自分の前の空間を指さした。そこに並べということらしい。列に入るとしっくりした。
僕の前の男が隙間に入ろうとして失敗した。年は五十代後半から六十代前半だろう。パンパンに膨らんだ登山用リュックを背負っている。
男は慌てて登山リュックを前抱きにし、両手で膨らみを押さえつけたがとても通れそうにない。
「後ろいるんですけどぉ」
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