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須田が後ろからせかす。男がぎょろりと目をむいた。すくんだのか、須田が黙り込んだ。
男はもたつきながら、何度も隙間に入ろうとした。
「ソマ、荷物捨てろよ!」
焦燥に駆られたのだろう。須田が地団太を踏んだ。
男はソマという名らしい。
「持っていきたい物の優先順位を教えてください」
「・・・・・・ユウセンジュンイ?」
「どうしても持っていきたい物はどれですか?」
ソマが登山リュックを下ろした。カップラーメンがぎっしりつまっている。
「カネ、ぜんぶ使って買った。ユサラに食わせてやりたい」
列を乱さないこと。
男を追い越し進んだ場合、列を乱したことになるのだろうか。
いや、それより。
親より年上の男がカップラーメンを抱いてうつむき絶望そのものの顔をしている。よほどの理由があるに違いない。荷物を捨てさせても無駄だ。納得しない限り彼は足を動かさない。
「手伝います」
ソマが顔をあげた。
「全部は無理ですが、持てるだけ持っていきましょう」
登山リュックからカップラーメンを取り出した。後ろの二人に差し出す。
「お願いします。一人二個運んでください」
リクルートスーツの女性と須田は手ぶらだ。僕とソマ、四人いれば八個運べる。
リクルートスーツの女性は無言で引き受けてくれた。
「須田さんも」
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