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ジンさんの声がした。彼とあずき色ジャージの少女を囲むように一行が集まっていた。
老翁、カップラーメンの男、リクルートスーツの女性、須田、そして壮年の男。
壮年の男はおそらく三十代後半だろう。モデルみたいだというのが第一印象だ。アゴ髭を整え、シンプルで洗練された服を着ている。
ジロジロ見ていたせいか睨み返された。
この目には覚えがあった。サークル見学に行った際に一部の先輩が向けてきた「こいつは使えるのか?」という値踏みのまなざしだ。
「また夜に」
ジンさんの声に、一行は夜明けの街へ散った。
残ったのはソマと僕だけだ。彼は着ていた作業服を脱ぎ、傍らに転がるカップラーメンを包もうとしていた。
ソマはよく日に焼けていた。体つきからしてブルーワーカーなのだろうが、仕事をしているイメージが持てない。かといってホームレスでもなさそうだ。
カップラーメンを差し出すと、ソマは黄ばんだ歯を見せて笑った。
河川の名前が書かれた横長長方形の看板に気がついた。
一級河川 淀川 大阪府
昨夜は東京のファミレスにいたはずだ。どんなに急ごうが一晩で大阪まで歩けるはずがない。
スマホを取り出しGPSを起動させる。現在地は大阪府だ。
財布がない。近くに知り合いもいない。
両親の顔が頭をよぎった。
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