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画面に「充電してください」と表示された。慌てて母の携帯番号をタップする。十数回の呼び出し音の後「はいはい」と不機嫌そうな声がした。母だ。週に何度も電話で話しているというのに、ひどく懐かしく感じた。
声を出そうと息を吸い込んだ時、プツッと絶たれる音がした。電池切れだ。
よりどころを失い急に不安になった。裸で放り出されたように落ち着かない。意味もなく同じ場所を行ったり来たりする。とにかく充電しなくては。
早朝の街は閑散としていた。
あてどなくさまよっていると腹が鳴った。続いてすさまじい喉の乾きに襲われた。体の内側が燃えているように熱い。昨日の昼から飲み食いしていないのだ。
公園を見つけ水飲み場で水を飲んだ。蒸し暑い季節の水道水は生ぬるく、よどんだ川の臭いがした。手の甲で口元をぬぐいながらベンチに座る。身を折るように曲げ、深いため息をついた。
頭に映像が浮かんだ。高さ四、五メートルほどのコンクリートの土手を線路が走っている。高架だ。
ここが今夜の集合場所か。理解した途端、見知らぬ土地だというのにすっかり周囲の地理がわかっていた。
裏道から通知を受けたのだ。
店が開く時間を見計らって駅前に出た。携帯キャリアショップでスマホを充電するとひとここちがついた。
裏道を歩きたい。
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