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 垣根に挟まれた私道だ。この界隈に住んでいる人しか使わない、家と家の間の隙間のような細い道。垣根の中には古い木造家屋が建っている。 地元にいた頃は、東京にこんなに古い建物があり、現役で使われているなんて思いもよらなかった。漠然とタワーマンションや、箱のような新築に住んでいるとイメージしていた。  ついでに言うなら、東京の大学に進学すればもっと遊ぶようになると思っていた。遊ぶとなると、合コンかサークル活動だが、前者はツテがなければ参加できない。ツテを作るとなるとサークルがてっとり早いが、見学の時点で人間関係の煩わしさが浮き立ち足が遠のいた。  結局、講義で顔なじみになった男数人とLINEを交換し、時間の合う時に学食で深夜アニメやアイドルについて喋りながら昼を食べたり、試験や就活の情報交換をする程度のゆるいコミュニケーションをとるだけの大学生活をしている。  一回り年上の姉によると僕の大学生活は枯れているらしい。東京の大学を卒業した後、地元で就職、結婚した彼女は「人生の選択に後悔はないが遊べる時にもっと遊んでおくべきだった」と顔を合わせるたびぼやく。あまりにもグチグチ言われるので「それ、姉ちゃんの後悔だろ」と言い返しそうになる。  それは言ってはいけないことだ。     
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