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「この団地全体が無人だと思うよ。長いこと歩いていると廃墟や廃村の気配がわかるようになるんだ。ま、人がいても大したことじゃない。夜まで身を隠せばいいだけだ。ところで君、裏道を歩くことのメリットがわかるかい?」 ―夜まで身を隠せばいいだけだ。  岩下の言葉を反芻する。  夜になれば全てが解決するような口ぶりだ。夜―通知が届けば僕達は裏道に入る。  この二日で東京から大阪、大阪から北海道へ移動した。目的地は選べないが、誰の目にも留まることなくこれだけの長距離移動ができるのだ。  裏道は最高の隠れ場所だ。  犯罪を通報されても夜まで逃げきり裏道に入ってしまえば翌朝には別の土地にいる。乗車記録も監視カメラも関係ない。  もっと最悪なことを考える。  凶器や遺体といった犯罪の証拠を裏道に捨てることもできるのだ。  鳥肌がたった。 「犯罪を犯しても、裏道に入れば逃げられる」  こいつらは、それをメリットだと考え裏道を歩いている。 「飲込みが早いね」 「みんな犯罪をしながら歩いているんですか?」  シノブさんが無事に帰れたと伝えた時のジンの笑顔。ソマがエコバッグに入れたカップラーメンを見せてくれたこと。時間の流れに埋もれてしまいそうな些細な記憶が蘇る。 「他の奴らのことは知らないよ。まぁ、程度の差はあれ手を汚しているとは思うけどね」 「ジンさんも?」  岩下が憐れむような顔をした。     
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