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「考えてみなよ。所得を得る方法がないまま何十年も歩き続けるんだ。まっとうな手段だけじゃ旅を続けられない」 「何十年って?」 「岩下さん、それ、いきなり話のキツいっすよぉ」  すぐ傍で須田が言った。  岩下が窓際に戻ってきた。 「僕が裏道を歩き始めたのは三十年前だ。スマホを持っていないのは、家族が失踪宣言を申し立てて、死んだことになっているからだ。死者は契約なんてできないからね」  どう見ても岩下は三十代後半だ。 「裏道を歩いていると老化が遅くなる。この三十年で少しは老けたが、還暦を越えた同級生と比べれば若いだろう?」 「あーあ、言っちゃった」  須田がきゃらきゃらと笑い声をたてた。 「僕が歩き始めた時には、すでにセツコとリクと爺さんがいた」  セツコはあずき色ジャージの少女。  リクはリクルートスーツの女性。 「爺さんは説明しなくてもわかるだろ」  と、岩下が言う。 「ジンとセツコはセットだ。僕達は、二人が案内する道を歩くしかない」 「ショック? ショックだよねぇ」 「須田、うるせぇ」  岩下の口調が荒くなる。須田は「すみません」とペコペコしながら引き下がった。
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