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中にはジンとあずき色ジャージの少女―セツコが横たわっていた。セツコは胎児のように丸まり、対面のジンは彼女の背中を抱いていた。二人の間には、あの小さなリュックがあった。
ジンが驚いた様子もなく身を起こした。
「何か用か?」
そのくつろぎぶりに彼らの家に不法侵入してしまったような気になった。
「何でもないです」
後ずさりし、竜宮から出ると、もと来た道を駆けだした。
坂の頂に戻ったのは太陽が真上に来た頃だった。
青い三角屋根の団地には目もくれず麓まで下りた。麓にはバス停があった。時刻表の文字は判別できないほどにじんでいた。
背もたれが割れたベンチがあった。座って大阪で買った菓子パンとペットボトルの水を飲み、誰もいないのだからと横になり目を閉じた。
寒さに目を覚ました。
気温が低いせいだけではない。悪寒がする。
とうに日は暮れていた。ベンチに横たわったまま闇に包まれていた。
軽いめまいがした。
視界に団地のドアが現れた。それだけでどの部屋のドアかわかった。
立ち上がると、坂の中腹辺りにぼんやりとした赤い光が灯っていた。他に明かりがないというのに、どこに道があるのかわかった。
ドアの前でジンが提灯をさげていた。
ジンとセツコの後ろがソマ。僕、リク、須田、老翁の順だ。岩下が最後尾につく。
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