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 垣根が終わり、道幅が広くなる。道の両脇は瓦屋根が乗った石塀になった。築地塀というものらしい。  塀の向こうは寺と墓地。そして火葬場だ。  私学の総合大学が近いというのに家賃が安い理由がここにある。  視界の端に何かが引っかかった。右を向くと細い道が延びていた。  毎日歩いているというのに初めて気がついた。どこに繋がっているのだろうと足を踏み入れた。  少し歩くと街灯があった。じくじくとした光の下に数人の男女がいた。細い道に一列に並んでいる。先に進むためには彼らに端に寄ってもらわなければならない。 「あの、すみません」  最後尾のリクルートスーツの女性に声をかけた。姿勢のいい人だ。高校の卒業式で後輩がくれたカラーリリーに似ている。 「通してもらってもいいですか?」  一同が一斉に振り向いた。何をされたわけでもないのに心臓が飛び跳ねた。年齢、性別に共通点がなく、何の集まりなのか想像がつかない。  リクルートスーツの女性は沈黙したままだ。他の人もそれぞれ別の方向へ視線をそらす。ここまで露骨に無視されたことがなかったので戸惑った。
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