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「進路が決まった」
先頭から男の声がした。黒いジャージ姿で頭に左官屋のようにバンダナを巻いている。
彼は大判の紙を広げていた。日に焼けて黄ばんだ古い紙だ。
「この町は道が入り組んでいて枝道が多い。おそらくあと何夜かはここを回るだろう」
一行が歩きはじめた。背中が遠ざかってゆく。
列の前方にいるスーツ姿の小太り男がチラリと振り返る。肩越しに「君は行くの?」と訊かれた。
大通りに出るショートカットがあるなら知りたい。
「あ、行きます」
列の最後についた。
「すみません。みなさんはどちらに行かれるんでしょうか?」
小太り男に並んだ。
「あ、キミ。列を乱さないで答えるから。彼女の後ろについて」
彼女というのはリクルートスーツの女性のことらしい。最後尾についた。彼は振り向きざまに僕の行動を確かめ満足げに笑った。
「ボクたちは道の先を目指している」
人を食った返事だ。
「一年ほど住んでるんですが、この道初めて知りました」
背中に話しかける。
「キミは学生さん?」
男はこちらを見ることなく尋ねてきた。
「そうです」
「専門?」
「いえ、大学です」
「近所に住んでるってことは、結構いい大学じゃないか」
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