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 ぽんと背中を押されると、そうしなければならないような気になった。先にシノブさんが歩きだす。街灯に誘われる虫のようにまっすぐ国道を目指す。  彼女の背中を追っていると急に大きな音に包まれた。ざざざ、ざざ。ノイズが慣れ親しんだ喧噪に変換される。  目の前を大型トラックが駆け抜けた。地の底から微弱な揺れがせり上がってくる。静まると周囲を見回した。道沿いの店に覚えがあり、おおよその場所がわかった。  シノブさんは僕のことなど目に入っていないようだ。両手をだらりと下げ、腰を反らして腹を突き出すような格好で歩き出す。 「送りますよ」  声をかけたが無反応だ。つくづく人に無視される日だ。しつこくまとわりついて痴漢と間違えられたら面倒だ。かといって放っておくのも後味が悪い。しょうがないので少し離れてついていくことにした。  光の城のような高層マンションについた。シノブさんがアプローチ階段をゆっくりと上ってゆく。その先にはガラスの扉があり、建物の内側から柔らかなクリーム色の光が漏れていた。  シノブさんが振り返った。 「ジンさんに伝えて。もうウラミチには行かない」     
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