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動機
あいつとは小学校からの付き合いだった。
いわゆる幼なじみというやつで、高校まで同じ地元の公立に進んだが、そこから先は別々の道――俺は県内の中堅大学、あいつは県外の難関に進学した。
卒業後、俺は実家を出て市内のIT系中小企業へ就職。社畜化する連中に抗うのが精いっぱいの、息が詰まりそうな日々を過ごしている。片や地元に戻ったあいつは、親から受け継いだいくつかの不動産収入を糧、某文豪によるところの高等遊民じみた暮らしぶりで日々を謳歌していた。
あいつは代々裕福な家柄の次男坊。誰もが知る一等地で生まれ育った。親はどこぞの社長で、そんなやつらは幼稚舎から有名私立なんかに入るのが大抵だったが、あいつの親はそういった志向のない気さくなたちで、不釣り合いな俺が遊びにいっても嫌な顔ひとつせず歓迎してくれる人たちだった。
賃貸マンション暮らしの庶民。一人っ子。呼吸するように愚痴や他人の悪口が出てきて、ことあるごとに老後の世話のプレッシャーをかけてくる自己中心的な親を持つ俺からみれば、それは理想的な家庭に他ならなかった。
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