動機

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 あいつとの格差はそれだけじゃない。  控えめな性格のくせ、男だてらに綺麗な顔をしていたあいつは、いつでもどこでも一目おかれる存在だった。ひきかえ俺は、可もなく不可もない圧倒的モブキャラ。誰の記憶にも残っていない。  そんな、どこをとっても対照的な俺たちにも共通点はあった。人づきあいが下手なところと趣味。中高と文芸部に所属していた俺たちは今でも作品を書き、定期的に読みあっていた。  だが、ここでも俺は嫉妬する。あいつは繊細な心理描写が持ち味で、読ませる文章を書いた。小手先ばかりのひねた展開で茶を濁す俺と違って。  恵まれた家柄。恵まれた家族。恵まれた容姿。恵まれた才能。明言できない鬱積に夜中突然目が覚め、吠えながら布団をかきむしる夜を幾度も過ごした。それでも、これまで(いさか)いなくやってこれたのは、互いが唯一の友人関係で理解者だったから。  俺にはあいつしかいない。あいつには俺しかいない。そう確信して疑わなかったから。  それが先日、恋人ができたというメッセージと画像が送られてきた。あいつに相応しい品のある美人の。  俺は俺の世界から、あいつを消すことを決心した。
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