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決行
その日、俺とあいつは隣県に来ていた。麓には、あいつの親が所有する別荘があり、学生の時分から長期休暇なんかには利用させてもらっていた。
テレビドラマや小説と比べて、実際の警察がどれほどなのかも分からない。だから変にアリバイづくりをするよりも、一緒にいて事故にみせかけて殺したほうが案外上手くいくかもしれないと考えた。
荷物を置き、近くの小山を散策しようと誘う。俺とあいつはここを訪れると、よくそうして過ごした。とりとめもなく歩き、語らい、時にはそれを作品に取り入れたりするために。
季節は秋。木々が色づきはじめたシーズンにもかかわらず、人の姿はなかった。観光地から少し離れた穴場。かつ、この時期に出歩いても不自然でない場所だからこそ今回の事故現場に選んだ。
穏やかな午後。残暑の尾をひく日射し。来たる季節を感じさせる風。行楽にうってつけの空のもとを行き、山林に入る。ときに冗談で遊んだり、まれに真剣をぶつけたり。俺たちは誰の目にも友人だった。そして、そうふるまおうと俺だけは努力していた。
だが、そんな茶番もおしまいだ。まもなく、あいつは物言わぬ肉塊となるのだ。
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