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結末
結局ただの小旅行で翌日家路をたどった俺は、自宅に着くなりワンルームの部屋中をひっくり返した。そして約一時間後、引っ越し以来クローゼットに押しこめたままだったダンボールの底から目当てのものを発掘した。
高校時代の文集。黄色、水色、桃色……。あった、薄緑の表紙。これだ!
帰宅途中コンビニで買った、缶酎ハイと焼き鳥をテーブルに並べる。ささやかな祝杯をあげながらページをめくる。
高校二年のあいつが書いたのは、親友と恋人の板挟みにあう男の苦悩。それがつぶさに叙情的で、ませたガキだと思わず笑みがこぼれた。
それから自作へ移動。内容はSFミステリー。拙さは顔から火が出そうになるほどだったが、今よりずっと新鮮みがある。やってやろうという意欲もある。なによりあいつに勝った。羨ましいと言わせた。たとえ世間では駄作でも、俺にとっては評価に値する。
他の冊子へ手を伸ばす。あいつと俺を交互に読み返す。にやつきも自惚れも増す。酒も食も進む。
最後にもう一度喜びを噛みしめようと薄緑を開いた。あいつの習作を読み終え、次のページをめくると『あとがき』があった。あいつのことは分かりきっているからと、これまで読むことのなかった代物。初めて目を通した俺は、そこにあった言葉に釘付けになった。
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