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「ちーちゃん、米粉パンっておいしーの」
米アレルギーのヒロが、ある日ふとあたしに言った。いつもみたいに、冷めた声。疑問形なのに、語尾が上がり切らない。そして無表情。
でも、あたしはヒロのそんな癖を知ってるから、なんでもない風に答えた。
「おいしーよ、まあ、あたしは食パンのほうが好きだけど」
ヒロがあたしのことを「ちーちゃん」って呼んでくるときは、甘えてるとき。
ヒロが無表情でなにかあたしに言うときはーーーー大抵涙をこらえてるとき。
だから、あたしは嘘をついた。
ほんとうは、あのもっちりした食感の米粉パン、たぶんパンの中でいちばん大好きだ。
でも、ヒロは食べられないから、おねーちゃんのあたしは、少しばかりの嘘をつく。
「そう」
ヒロの声のトーンが少しだけ上がったのを感じた。
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