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まずベースとなるのは、一組の市原。
点二つと縦線横線で再現できそうな顔に、黒いひっつめ髪。地味そのものが服を着ているようなそいつは「私なんか」「どうせ」が口癖で、これまでどんな扱いを受けてきたのか容易に想像できる女子だ。
「私なんかじゃ無理です。どうせ失敗して笑われるだけです」
がりがりの肩を震わせる市原。やめろ。そんな幸薄そうな見た目で咽ぶんじゃない。なんか惨いだろうが。俺まで泣けてくる。
「この企画はお前ありき。逆にいえば、お前が拒否するなら諦めるしかない。分かるか。お前が始まりであり、中心であり、切り札なんだ」
そう言ってやると、市原はつぶらな瞳で見つめてきやがった。やめろ。そんなあっさりした埴輪顔を向けるんじゃない。反応に困るだろうが。俺を混乱させるな。
「私、やります!」
涙をぬぐう市原。なんだこのクソちょろ……もとい、打てば響く素直な性格は。
「よく言った。俺は信じていた。心配ない。きっと上手くいく。一人じゃないからな」
どこぞの歌詞にありがちな文句を並べる。市原が大きく頷く。かくしてこいつは、まな板の上の鯉となった。
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