地蔵参り

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地蔵参り

「ばあちゃんの生まれ故郷には、古いおまじないがあるんだよ。家の近所に荒神さまのお社があってね。  夏祭り、秋祭り、正月のとんどさん。いろんなお祭りがあるなかで、こんな、いわれがある。  夏祭りの夜、裏のお地蔵さんに五人の子どもがお参りすると、そのなかの一人のお願いを必ず叶えてくれるんだよ」  子どものころ、祖母からそんな話を聞いたことがある。  祖母は四国の生まれで、関西に嫁いで来た。故郷を離れ、風習の異なる土地で生きていくのは、何かとさみしかったのだろう。  琴音(ことね)と姉の綾音(あやね)は、よく生まれ故郷の話を聞かされた。  (かつお)のタタキが得意料理で、こんぴらさんの民謡を唄い、弘法大師を信仰していて、昔話がとても上手だった、おばあちゃん。  とくに何度も聞いたのは、夏祭りの夜の地蔵参りについてだ。 「なんでも叶えてくれるの?」 「そう。なんでも。だけど、気をつけないといけないよ。お願いをしたあと、鳥居を出るまで、絶対にふりかえっちゃいけない。ふりかえると、悪いことが起こるからね」 「悪いことって?」 「さかしま返りって言ってね。ふりかえった人のところに、おまじないが返ってくるんだよ」 「おまじないが返ってくると、どうなるの?」 「さあ。どうなるんだろうね」  祖母は笑って話してくれなかった。祖母も知らなかったんだろうと思う。  その祖母も亡くなったけど……琴音は知っている。  ふりかえると、何が起こるのか。  なぜなら……。
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