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「ただいま~」
滋賀への出張から帰った夏穂が「疲れた~」とドサッとソファーに座り込んだ。 そりゃあ泊まり予定だった出張が急遽日帰りになったんだから、疲れもするだろう。
「おかえり。疲れたでしょ、お風呂沸かしてるから先入ってきたら?お気に入りの入浴剤入れてあるよ」
ソファー越しに夏穂の後ろに立ち、ジャケットを脱がしてあげる。そのジャケットを腕に掛け、ハンガーを取りに行こうとしたら後ろから抱き着かれた。
「凛ちゃんありがとー。りんちゃんが優しくて疲れが飛んでくぅ……」
抱きついたままグリグリと額を押し付ける夏穂。こらこら、ファンデついちゃうから。
「仕事で疲れた恋人を労わるのは当然でしょ。ほら、ジャケット向こうに掛けて来るから離して」
「はーい」
素直に離してくれる夏穂が可愛いけど、すんなに離してくれたのがちょっとだけ寂しかったり……。
リビングに戻って、ソファーに座ってる夏穂の頭を撫でた時、隣の紙袋の中がチラッと見えた。
「鮒寿司、買ってきたんだ」
「もちろん!」
さも当然と言わんばかりに笑顔でそう答える夏穂も可愛い。鮒寿司、好きだもんね。
夏穂はチーズとかの発酵食品も好きだ。
鮒寿司と言えば言わずと知れた滋賀県の郷土料理。鮒を塩と飯で漬け込み発酵させたもの。
結構癖があるので万人受けはしないけど、好きな人も少なくない。特に酒好きには堪らないつまみとなる様だ。
それは夏穂も例外じゃなく、前にも滋賀県への出張の時に鮒寿司を買って来ていた程。そして その鮒寿司と共に嗜むお酒として、滋賀県の日本酒も買って来ているはず。
明日休みだしね。きっと本人はこれをめちゃくちゃ楽しみに帰ってきたはずだ。彼女の期待に答えるとしようか。
「今日は燗がいい?冷がいい?」
「燗で!」
即答する彼女に笑顔で「了解」と答え紙袋から鮒寿司と日本酒を取り出す。その様子を見た夏穂は「凛ちゃんのそう言うツーカーな所ほんと好き」と私の頬にキスを落として脱衣所へ消えていった。
頬に残る感触にちょっとニヤけつつ、燗ならつまみも温かいやつにしようかな、と彼女お気に入りのつまみを作るために用意を始めた。
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