アフロ☆美容室

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 以来、古和毬丘三丁目商店街の中で、『アフロ美容室』を見つけることはできなかった。覚えのある路地を何度歩いても、あの十二色のひらひらしたモビール、くるくる回るスチール看板、スモークガラスの黒い扉が見つけられない。  私はもう、アフロを求めてはいないのだろうか。  それとも。  すでに、私はアフロなのだろうか?  今日も、約束の時間より少し早めに着いたので、路地という路地をぐるりと歩いてみた。けれど、やっぱり見つからなかった。 『アフロ美容室』。 「荻野目さん!」  メイン通りに戻った私を呼ぶ声がする。あ、と振り返ると、彼が私に向かって大きく手を振っていた。  明日、彼はエア・ギター世界大会に出場するべく、地区予選に挑戦する。今日はささやかな壮行会だ。ぜひとも国内予選を勝ち抜き、世界大会に行って欲しい。  そしてできることなら、フィンランド語で書かれたムーミン原書を買ってきて欲しいとこっそり思っている。  私も大きく手を振り返した。  見えないギターを持つ彼の手には、何かがしっかりと握られていた。                                                                                    (了)
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