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以来、古和毬丘三丁目商店街の中で、『アフロ美容室』を見つけることはできなかった。覚えのある路地を何度歩いても、あの十二色のひらひらしたモビール、くるくる回るスチール看板、スモークガラスの黒い扉が見つけられない。
私はもう、アフロを求めてはいないのだろうか。
それとも。
すでに、私はアフロなのだろうか?
今日も、約束の時間より少し早めに着いたので、路地という路地をぐるりと歩いてみた。けれど、やっぱり見つからなかった。
『アフロ美容室』。
「荻野目さん!」
メイン通りに戻った私を呼ぶ声がする。あ、と振り返ると、彼が私に向かって大きく手を振っていた。
明日、彼はエア・ギター世界大会に出場するべく、地区予選に挑戦する。今日はささやかな壮行会だ。ぜひとも国内予選を勝ち抜き、世界大会に行って欲しい。
そしてできることなら、フィンランド語で書かれたムーミン原書を買ってきて欲しいとこっそり思っている。
私も大きく手を振り返した。
見えないギターを持つ彼の手には、何かがしっかりと握られていた。
(了)
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