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「へえ。やっぱりすごいね。何やるの。ギター弾くの?」
私の言葉に、阿以君はぱっと目を見開いた。それから、微妙に目元を翳らせる。あれ。私はそんな彼の顔をじっと見た。
「……荻野目さん」
「うん。何?」
「俺、さ。まだ誰にも言ってないんだけど」
「え」
誰にも言ってないことを言われるなんて人生初だ。しかも高校時代も大して口をきいていない、再会してほんの五分程度の男の人から。私はにわかに緊張した。
「な、何?」
「俺……世界大会に挑戦しようと思ってんだ」
せかいたいかい。
あいうえおがせかいたいかい。
「えっ? せ、せかいっ? す、すごいねっ?」
「今度、フィンランドで」
「フィンランドっ? なんかすごいっ!」
ムーミン? ムーミンムーミン?
「エア・ギターの世界大会なんだ」
えあ・ぎたー。
ギター。
「すごい!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。
「世界大会でギターを弾くのっ? すごい、すごいよ阿以君っ」
「荻野目さん」
エア・ギターとはなんぞや。しかし、そんなことはどうでもよかった。
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