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アフロと聞いて陰鬱な気分になる人間はそうそういるまい。襟を正して、静かに席に座って、電子機器の電源はすべてオフにしなければならない、と連想する人もいないであろう。
もしや究極の癒し系なのか。マイナスイオンとかドビュッシーとかゆるキャラのように外からの刺激でなく、癒しそのものが自分の頭にある合体系癒し。
そして唐突に思ったのだ。
そうだ。
アフロになろう。
こんな地味で鼠色で剛毛直毛毛量多めの私だけれど。アフロになれば。アフロになれば変われるんじゃないか。
その姿で同窓会に行くのだ。荻野目的地殻変動。なんかすごい。消えた十五年が逆流しそうなほどに。
そうすれば、阿以君に少しでも近付けるかもしれない!
おそるおそる店に近付いた。古ぼけたショーウィンドに飾られているモデル写真は当然アフロヘアー。
スモークガラスの扉からは中が窺えない。私は丸い取っ手をこわごわ引き、重いガラス扉を開いた。
「あの。ごめんください……」
中は闇。
と、思ったら。
唐突に頭上で光が弾けた。ミラーボールがくるくるくるくる回り出す。えっ! 驚く私の目に、店内中を舐めるように回る光の粒が映った。
「剛毛!」
「剛毛!」
声が響いた。ひえっ。私は立ちすくむ。
「直毛!」
「直毛!」
え? え?
「毛量!」
「毛量!」
光の粒の乱舞の中から男女が飛び出してきた。縦に長い男女。すらりとしているというより、特売のごぼうを思わせた。
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