アフロ☆美容室

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「お願いします……! アフロのプロの方から見たら片腹痛いアフロになると思うのですけど……! どうしても今日、アフロにならなきゃいけない気がするんです。お願いします! 私をアフロにしてください!」  頭を下げた。ごわごわの剛毛直毛がはらりと頬に落ちる。  ふ、と光の乱舞が止んだ。私ははっと顔を上げた。  私をじっと見つめていた男が、大きく頷いた。 「わかりました。人にはタイミングというものがある。あなたが今、アフロになりたいと思った、このタイミングに意味がある」 「……」 「この美容室は、心からアフロを求める人にしか見えません。なぜ、あなたは見えたのか? それはアフロを求めているからなのです!」  求めていた。ふら、と男女に歩み寄った。鼠色のショルダーバッグのベルトをギュッと握り、私は言った。 「私、変われますか。アフロになれば」  にこ、と男女が笑った。まったく同質の、一体の生き物のような笑み。 「望んだ時点で、あなたは変わっています」  全身を打たれた気がした。  もう変わっている? 私?  さっと男女が両手を広げ、店内の真ん中に置いてあるスタイリングチェアへといざなった。アンティーク調の丸い背もたれの形が印象的なチェアは、見た目より深く沈み込む座り心地だった。目の前に置かれた大型ミラーにも、フレームにアンティーク調の彫刻が施されている。
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