アフロ☆美容室

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 横手にあった金屏風の陰から、阿以君がステージに駆け上がってきた。音楽のボルテージが上がる。エレキギターの甲高い音が、ワーッと叫んだ同窓生たちの声に重なった。  阿以君が恍惚の表情でのけ反った。弦を押さえる手指をばらばらと動かし、絶叫のような音をかき鳴らす。私はその姿をぐっと息を詰めて見た。  その手に、ギターはなかった。  え? え? 戸惑いがフロアに広がるのが分かる。  しかし会場の困惑をよそに、曲はどんどん進む。蹴散らして進む。ぴったぴたの革パンツ姿の阿以君は、身体を前後上下に揺らし、イナバウアーばりの柔軟性、優美さも見せつつギターの音をかき鳴らす。  ただ、その手にギターはない。 「エア・ギター?」  誰かが声を上げた。エア・ギター。私は納得した。これがそうなのか。 「マジで?」 「えっ。ちょっと、これ?」  長谷川さんと岩田さんがこそこそと言葉を交わした。周囲の人々もさわさわとささやき始める。 「エアか……」 「え、あいつ前はギター弾いてたよな? 文化祭とかで」 「今日は余興だから?」 「金がないとか?」 「ていうか、メジャーデビューするんじゃなかったのかよ」 「何、もしかして挫折? 挫折的な?」 「なんだ自分では弾かねえのかよ、阿以!」  彼の〝積み重ね〟が、勝手に口々語られている。私はぐっと手を握り、それでも空気演奏を続ける彼を見た。  阿以君の額に汗がにじんでいるのが分かる。空気弦を押さえる指先は、音とぴったりはまっていた。激しい曲のビートに合わせて全身がうねり、ギターが止む瞬間には飛んだり跳ねたり、パフォーマンスは決して途切れない。  ……すごい。私は素直に思った。
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