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阿以君はあの手の中に積み重ねた自分を抱えている。そうして今。今、この時も自分を刻み続けているのだ。
無意味なものなんて何もない。
すべての道は――
すべての道は、自分に通じている!
気付くと駆け出していた。ステージに飛び乗り、見よう見真似でギターを抱える。
するとどうだ。
私の手にもしっくり馴染むギターが見えた。音楽に合わせ指を動かすと、ビートがぎゅんぎゅんと身体中に響いた。驚いた顔をした阿以君が、にっと笑う。
「アフロ!」
彼が叫んだ。会場から「アフロ!」という声が返る。
ビートが弾ける。私と阿以君の足がいっせいに跳ね上がる。
「アフロ!」
「アフロ!」
最初はぱらぱらとしていた声が、二人の空気演奏の勢いに乗り、どんどん増幅していく。私はまん丸のアフロを揺らし、空気ギターをかき鳴らした。ギュイィイイイン。
「アフロ!」
「アフロ!」
「阿以!」
「ウエオ!」
「阿以! ウエオ!」
「あいうえお!」
弾けた。アリ! アリアリ、これもアリ! その一体感が瞬く間に宴会場を包み、全員がステージ前に駆け寄って跳ねて踊り出した。阿以君の笑顔がきらきら輝いた。汗が飛び散る。なぜか、目からも汗をかいているように見えた。
阿以君の真似をして大きく背を反らせてみた。ぼきぼきごげげ。背骨と腰がヘンな音を響かせる。けれど私は楽しくて、嬉しくて、全然気にならない。
「アフロ!」
叫んだ。
「お前だよ!」
阿以君が返す。
そうだ。
私はアフロだ。
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