アフロ☆美容室

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 人はいつ、今、ここで生きている時間こそが人生だと実感できるのだろう。十五年前から身長体重趣味嗜好も大して変化しない、向上心もない、人付き合いも特に波風立たず、その代わり胸を焦がす出会いもなく、これでは等身大のくたくたトイが日々電車に乗って会社に通っているのと変わりがないのではないか?  私とはなんなのだ。三十三年という日々を重ねただけの砂の人形か?  ――が。それから数日後のことだった。私はとうとう見てしまったのだ。  その日、私はテレビで深夜放送されていたホラー映画をついつい最後まで鑑賞してしまった。おかげで眠りについたのは明け方だったのだが、もちろん目覚まし時計は出社に合わせて律儀に鳴り響く。そのため、いつもより寝不足気味の身体を引きずり、洗面台に立った。  そして見た。  鏡に映るのは、白々とした蛍光灯が真上から照らす私の顔。その相貌からは、自覚していたよりごっそりと時が流れていたのだ。ギャア! 私は内心戦いた。なんだこのオバサン! ホラー映画の続きか?   落ち窪んだ目尻、くすんだ肌色。が、何より私を戦慄させたのは、隠しようもない口元だった。 「こっ……これがほうれい線っ……!」
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