アフロ☆美容室

9/27

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
 思わずつぶやいた。ここ古和毬丘三丁目商店街のシンボル、コワイガーではないか。一年ほど前、地元青年会が作ったゆるキャラだ。認知度は半径500メートルほどと思われる。  そのコワイガーが、ヘルメット越しのくぐもった声で「荻野目さん? 荻野目さんだよねっ」と言いながらずんずんと近付いてくる。イガイガが揺れる。 「はひっ?」 「あーっやっぱり! 俺俺!」  なんだこれ新手のオレオレ詐欺か。  目を白黒させて怯える私を見て、「あ」とコワイガーがうなった。「ごめんごめん」と言うと、ヘルメットを脱ぐ。  中から現れたのは、三十前後と思われる男性だ。もっさもさの黒々とした髪が若々しい。が、私は騙されない。すかさず、ほうれい線をチェックしてしまう。 「俺。覚えてる? 花盛で一緒だった。三年二組。出席番号一番、阿以ウエオ」  あいうえお。  アイウエオ…… 「あいうえおっ?」 「いきなり呼び捨てっ? 久しぶりだね」  おそらく、出席番号は常に一番であろう阿以ウエオ。高校時代から、常に学内全体のムードメーカーで目立っていた。 「上京してギタリストになる! バンド組んでメジャーデビューする!」  そう公言していた彼は遠い存在だった。将来とか。未来とか。そんな漠然としたものにくっきりと形が付けられる。私にとって、彼は超時限の異星人だったのだ。……コワイガーになっていたとは予想外だが。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加