心血を注いだ原稿用紙

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 気分転換にと携帯電話に手を伸ばすが、すぐにそのことを後悔した。電源ボタンを押すとまず飛び込んできたのは自主休みを取っている後輩からの新着メッセージ。 『家に帰ったら市から佳作入選の手紙きてたんで、一応報告しときます』  その言葉がどれだけ厳しいものだったかは言うまでもない。気分を変えるつもりが、余計に落胆の気持ちが強くなってしまった。  心から思うのは、『どうして俺だけが落選しているんだ』ということ。俺は三年生で、部長で、部員の添削を担当するくらい技術を重ねてきたというのに、俺の家の郵便受けに入っていたのは落選通知だけだった。薄い紙が一枚だけ。後輩が手にしていたような、講評会への出欠確認なんてものはなかった。  嫌な汗をかかせるこの感情の名前を出すと惨めな気持ちになりそうだ。俺が添削した後輩の作品が受かるんなら、俺自身が書いた作品が受かっていてもいいじゃないか。自慢じゃないが、部内で誰よりも多く慣用句を知っている自信があるし、他のやつらと違って入部する前から小説の書き方について深く調べていた。プロットを詰めて、構成を工夫して、国語や歴史の授業で耳にした知識を目ざとくメモしながら作品作りを続けてきたのに。  泥のように噴き出す言葉は留まることを知らず、黒い感情に支配されそうになる。目をつむれば頭痛がし、目を開けていれば茶封筒から取り出した落選通知を思い出す。ずっと頑張ってきたのに、それが報われてくれたっていいはずなのに、入選通知を手にしているのは俺が作品添削をしてやった後輩たち。
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